「なんでこんな日に限って、渋滞やねん」
大雨。
タクシー乗り場も長蛇の列であったが、
道路も、ぴくりとも動かない。
源太郎は、
何度も腕時計を見返した。
「悪いけど、急いでくれへんか」
運転手は、
困ったような素振りを見せた。
「もうええ、ここで降りる」
ドアを開けて、外に出る。
傘を差したが、
足元がもたつく。
「……めんどくさ」
そう言うと、
傘を放り投げた。
雨の中を、走る。
息が上がる。
靴が、水を含む。
それでも、止まらない。
――間に合えよ。
式場に着いたのは、
開始の五分前だった。
頭も、礼服も、
びしょ濡れだ。
親族控室に入ると、
姉が驚いた顔をした。
「あんた、びしょ濡れやないの!」
「しゃーないがな。
渋滞やったから、途中から走ってきたんや」
「あんたは、相変わらずやなぁ」
その様子を見ていた式場スタッフが、
タオルを差し出す。
源太郎は、
乱暴に頭を拭いた。
「……間に合ったか?」
「ギリギリやけどね」
姉は、少し笑った。
「ちゃんと、エスコートしてあげてや」
その一言に、
源太郎は手を止めた。
少しだけ、間があく。
「……分かっとる」
短く、そう答えた。
廊下に出る。
雨の音が、
遠くなっていく。
代わりに、
静かな鐘の音が聞こえてきた。
花嫁控室の前で、
足を止めた。
一度、深く息を吸う。
軽くノックをする。
「入ってええか」
中から、
「どうぞ」と声がした。
扉を開ける。
白いドレス姿の夏美が、
鏡の前に立っていた。
その姿を見て、
一瞬、言葉が出なかった。
夏美が、
鏡越しに気づいて、振り返る。
「……頭、ボサボサじゃない」
「うるさい」
ぶっきらぼうに返す。
少しだけ、
視線を逸らした。
ふと、目が合う。
夏美が、
小さく笑った。
「ちゃんと来てくれたんだ」
「当たり前や」
短いやり取りのあと、
間があく。
「なっちゃん、あのな…」
源太郎は、
ゆっくりと手を差し出した。
「……いくで」
夏美は、
静かに頷いた。
その手を取る。
二人は、
並んで部屋を出た。
扉が開く。
光が差し込む。
一歩。
また一歩。
足音が、静かに重なる。
歩幅が、
少しずつ揃っていく。
そのまま、
まっすぐ前へ。
――ああ。
ここまで来たんやな。
源太郎は、
そう思った。
夏美は、
前を向いたまま、
ほんの少しだけ、声を落とした。
「……ありがとう」
その声が、
誰に向けられたものかは、
分からなかった。
けれど。
人は、
ひとりでは生きていけない。
けれど、
誰かの力で、ここまで来れる。
そしてまた、
誰かの背中を、そっと押していく。竹岡税務会計事務所
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