工場のシャッターを半分下ろすと、
中は、仕事と生活の境目が、ますます分からなくなる。
田中 恒一の工場は、自宅の一角にあった。
旋盤の音が止まると、
そのまま台所の物音が聞こえてくる。
「……ここ、全部仕事ってわけでもないしな」
月末。
田中は、光熱費の請求書を広げていた。
電気。
水道。
ガス。
どれも、家と工場が一緒だ。
会計ソフトの画面には、
「家事按分」という言葉が表示されている。
「……按分、ね」
何となく、
半分くらい?
そんな感覚で、今までやってきた。
理由は、説明できない。
ただ、
「それくらいかな」
という気持ち。
田中は、先生の顔を思い出し、
スマートフォンを手に取った。
「先生、家事按分って……
正直、どこまでが正解なんですか」
少し間があって、
返事が来た。
「正解はな、
一個やないです」
思わず、画面を見つめる。
「え?」
「大事なんはな、
数字より理由ですわ」
先生は、電話口で続けた。
「たとえばやで。
工場、何時間動かしてます?」
「平日は、だいたい八時間くらいです」
「ほな、
家は、二十四時間使てますよね」
田中は、黙ってうなずいた。
「面積は?」
「工場が、全体の三割くらいです」
「ええですね」
先生の声は、相変わらず落ち着いている。
「ほなな、
時間と面積、どっちを基準にするか
決めたらええんです」
「……どっちが正しい、じゃなくて?」
「せやから、
筋が通ってるかです」
田中は、メモを取りながら聞いた。
「半分、っていうのがな」
先生は、少し笑った。
「いちばん多いんですわ。
理由のない半分」
胸が、ちくりとした。
「それ、
税務署に聞かれたら、
どう説明します?」
田中は、言葉に詰まった。
「……できない、です」
「でしょ」
先生は、優しく言った。
「按分いうんはな、
ズルするためのもんちゃいます」
一拍置いて、続ける。
「自分で、
『ここまでは仕事』
って線を引くためのもんです」
田中は、請求書を見つめ直した。
電気を一番使うのは、
機械が回っている時間だ。
水道も、
冷却や清掃で、
工場の使用が多い。
ガスは、
ほとんど生活だ。
「……電気と水道は、
工場三割、
ガスは、ほぼゼロ、
でいけそうですね」
「ええと思います」
先生は、即答した。
「その代わりな、
メモ残しときましょ」
「メモ?」
「はい。
『機械稼働時間が長いため』とか、
『工場面積が三割のため』とか」
田中は、ノートに書き込んだ。
理由を書く。
考え方を書く。
「これな」
先生は、少し声を落とした。
「税務署のため、
やないです」
「……え?」
「未来の田中さんのためですわ」
数年後。
今のことを、
正確に覚えている自信はない。
でも、
理由が書いてあれば、
自分でも、納得できる。
「家事按分ってな」
先生は、最後にこう言った。
「あいまいなもんを、
あいまいなまま放っとかん
ための作業です」
電話を切ったあと、
田中は、静かに入力を始めた。
半分、ではない。
感覚、でもない。
自分なりの、
説明できる数字。
入力を終えたとき、
胸の奥に、
小さな達成感が残った。
完璧じゃない。
でも、
逃げていない。
家と工場。
生活と仕事。
混ざり合っているからこそ、
考える意味がある。
田中は、画面を閉じ、
深く息を吐いた。
あいまいな壁は、
壊すものじゃない。
言葉で、
説明できるようにするもの
なのだと、
少し分かった気がした。
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