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連続税務小説 ヤマゲン 第75話 「妖怪ムチャブリ」

2026/03/10
連続税務小説 ヤマゲン 第75話 「妖怪ムチャブリ」

 午後。

 夏美は、

 国道沿いの中古車販売店の前に立っていた。

 

 赤いのぼり旗が風に揺れている。

 

 看板には

 

 オートショップ・ナカガワ

 

 と書いてあった。

 

 駐車場には、

 中古車がずらりと並んでいる。

 

 事務所のドアを開ける。

 

「失礼します」

 

 中から声が返ってきた。

 

「おお、先生!」

 

 奥の机から、

 つなぎの作業服を着た、

 大柄な男が立ち上がった。

 

「中川です」

 

「大和税理士事務所の一条です」

 

「ヤマゲン先生のとこの人やね」

 

 中川は笑った。

 

「まぁ座ってください」

 

 机の上には、

 領収書の束。

 

 夏美はノートパソコンを開いた。

 

「では今月の――」

 

「先生」

 

 中川が言った。

 

「ちょっと相談があるんやけど」

 

「はい」

 

 中川は一枚の領収書を差し出した。

 

 金額は、458,000円。

 

「これ、経費にしといて」

 

 夏美は見る。

 

「社長、これは……」

 

 ペットショップの領収書。

 

「ペットを買われたのですか?」

 

「そうそう」

 

「トイプーちゃん、買いましてん」

 

「トイプードルですか?」


「そや」

「うちの店の番犬にもなるさかいな」

「いや、さすがにそれは…」

 夏美がそう言うと、
 中川はニヤリとした。

「先生、
 防犯対策のセキュリティ会社、
 知ってはりますやろ」

「えーっと、セコムとか…」

「そや、それと一緒ですやん」

「トイプーちゃん、
 今日は家に置いてきてますけど、
 店に置いといたら防犯になりますやん」

「あ、いや、理屈上はそうですけど……」

「ほんで、エサ代。
 これも、電気代と同じや。
 セキュリティも電気代かかりますやん」

「いや、ちょっと待って下さい」

「常識的に考えて」

「ワンちゃんも、
 エサ代も、
 どちらも必要経費に認められる訳がないじゃないですか」

「ふーん」

「ほな、その常識って、誰が決めたんや」

「いや、誰が決めたとかじゃなくって、
 そんなもの経費に認められません!」

 夏美は、
 徐々にヒート・アップしてくる自分が分かった。

「ほな、先生、聞きまっせ」

 と、中川は姿勢を正した。

「ペットが防犯の役に立つにも関わらずや、
 経費に落としたらアカンなんて、
 法律のどこに書いてますねん」

「そ、それは……」

 夏美は黙った。

「ほらな、答えられへんやろ」

 中川は再びニヤリとする。

「あ、そやそや、これも」

 

 中川は引き出しを開けた。

 

 そこから、

 

 数枚の領収書を出した。

 

 全部、白紙だった。

 

「これな」

 

「居酒屋でもろた」


「そこの店主、
 白紙で欲しいっていうたら、
 何枚でもくれよんねん」

「好きな金額書けるで」

 

 夏美は言葉を失った。

 

「これでな」

 

 中川はペンを持つ。

 

「十万ぐらい書いとこか」

 

 夏美は慌てて言った。

 

「社長、それはダメです」

 

「なんで?」

 

「それは架空経費になります」


「しかも、重加算税の対象ですよ」

 中川は笑った。

 

「先生」

 

「はい」

 

「税理士ってな」

 

 一言。

 

「税金下げるのが仕事やろ」

 

 夏美は言った。

 

「違います」

 

 中川は少し驚いた顔をした。

 

「え?」

 

「正しい申告をすることです」

 

 中川は腕を組んだ。

 

「ヤマゲン先生はな」

 

「もっと柔らかい言い方するで」

 

 夏美は答えた。

 

「分かりました、

 では、
 どのような答え方をさせて頂くべきか、

 うちの大和に相談させていただきます」


「ちょ、ちょっと」

「それは、待ってぇな」

 突然、中川が慌てた。


「ヤマゲン先生には内緒で、
 コソっとやっといて欲しいねん」

「業者仲間の奴らも、
 架空の板金修理代の領収書をもらったりして、
 利益調整くらい当たり前のようにしとるで」

「ほら、ひとりでやっとる、
 じじぃの板金屋とかおるやろ。
 あいつら、ワシらからお仕事が欲しいから、
 こっちが頼んだらよう断らへんねん」

 そういうと、
 中川は、たばこに火をつけた。

「税金なんか、
 まともに払うやつの気が知れんわ」

 夏美の血液が、
 足元から一気に天に達する。

「馬鹿にしないで下さい!」

「社長、あなたは、
 ご自身が何をおっしゃっているのか、
 分かっておられるのですか!」

 中川は黙る。

「あなたが本気でおっしゃっておられるのなら、
 完全に脱税行為ですよ」

「しかも、取引先まで見下して」

「あなたは、経営者失格です」

 夏美は、
 自分でも驚いていた。

 そんな言葉が、
 自然と出てくるとは。

 中川の顔が一気に高調する。

(しまった……言い過ぎた……)

 夏美は、ふと、われに返った。

「社長、す、すみまん」

「言い過ぎました」

 夏美は頭を深々と下げた。

 すると、
 中川が、大声で笑った。

「えっ」

 夏美は、思わず顔を上げる。

「なるほどな」

 

「ヤマゲン先生の、いうてたとおりや」

 

「ど、どういうことですか」

 夏美は混乱している。

「いやいや、こっちの話や」

 



 帰り道。

 

 夕方の国道を歩く。

 

 車の音が、

 途切れない。

 

 電車に乗る。

 

 夏美は鞄からノートを出した。

 

 表紙には

 

 社長ノート

 

 と書いてある。

 

 ページを開く。

 

 ペンを走らせる。

 

 

  • オートショップ・ナカガワ
  • ペット代とエサ代を経費にしろ
  • 空白領収書を経費にしろ
  • 税金下げろ

 

 

 少し考える。

 

 そして、

 

 最後に書いた。

 

 妖怪ムチャブリ

 

 ノートを閉じた。

 

 電車が揺れる。

 

 夏美は思う。

 

 怒鳴る妖怪。

 丸投げする妖怪。

 1円の妖怪。

 泣き言の妖怪。

 理想の妖怪。

 

 そして――


 無茶ばかりを言う妖怪。


 社長って、
 妖怪だらけだ。

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