田中 恒一は、工場の電気を一つずつ落としていた。
機械の音が止まり、
静けさが戻る。
その静けさの中で、
ふと、頭をよぎった。
「……青色申告って、
そんなに大事なんかな」
きっかけは、
同業者との何気ない会話だった。
「うちは白やで。
別に困ってへん」
軽い口調。
深い意味は、なかったはずだ。
でも、
なぜか引っかかった。
翌日。
ヤマゲンの事務所。
イチゴ柄のネクタイは、
今日も一見すると地味だ。
でも、
よく見れば、
やっぱりイチゴだ。
「ヤマゲンさん」
田中は、
前置きなしに聞いた。
「青色申告って、
正直、
そこまで重要なんですか」
ヤマゲンは、
すぐには答えなかった。
机の上で、
イチゴポッキーを一本転がす。
「……田中さん」
静かに言う。
「それな」
「保険いらんでも
生きていけますか?
って聞かれてるのと
同じですわ」
田中は、
一瞬、言葉に詰まった。
「生きてはいけます」
「せやけど」
ヤマゲンは続ける。
「何かあった瞬間、
一発で詰みます」
「たとえばな」
ヤマゲンは、
さらっと言った。
「パソコンとか
機械、買ったとします」
「10万円以上やったら」
一拍も置かず続ける。
「原則、固定資産です」
「耐用年数で
毎年ちょっとずつ
減価償却」
田中は、
思わず顔をしかめた。
「でもな」
ヤマゲンは、
指を一本立てる。
「ここから
申告区分で差が出る」
「青色申告してたら
1点が10万円以上30万円未満の固定資産は
その年に全額、経費にできますねん」
田中は、
目を見開いた。
「……一発で?」
「そうです」
「ただし」
ヤマゲンは、
すぐに釘を刺す。
「年間上限、
300万円まで」
「超えた分は」
淡々と言う。
「アウト」
「固定資産扱いで
減価償却」
「ここ、
管理できてへん人
多いです」
「しかもな」
ヤマゲンは、
少し声のトーンを変えた。
「2026年4月1日以降取得分から」
「この30万円」
「40万円未満
まで緩和されます」
田中は、
思わず身を乗り出した。
「枠、
広がるんですね」
「せやけど」
すぐに続く。
「青色申告が前提
です」
「白色は、今まで通り
10万円以上は、原則、減価償却」
田中は、
小さく息を吐いた。
「同じ買い物で、
ここまで違うんですね」
「それが
税務です」
「ただな」
ヤマゲンは、
ここで少し間を置いた。
「白色でも
使える特例
もあります」
田中は、
少し驚いた。
「10万円以上
20万円未満」
「この固定資産」
「一括償却資産
って扱いにできます」
「名前、
ややこしいですけど」
にやっと笑う。
「一発で
経費ちゃいます」
「3年間で
均等償却
です」
「これはな」
「青色でも
白色でも
使えます」
「しかも」
指を一本立てる。
「年間上限、
ありません」
田中は、
ゆっくりうなずいた。
「名前に
だまされたら
あかんですね」
「せやから
税理士がおるんです」
「もう一個」
ヤマゲンの声が、
少しだけ低くなった。
「ここ、
ほぼ全員
忘れてます」
田中は、
背筋が伸びた。
「パソコンでも
機械でも」
「固定資産を
持ってたら」
「毎年1月」
「市役所に」
「償却資産申告書
出さなあきません」
「前年までに
取得した固定資産を
全部まとめて」
田中は、
眉をひそめた。
「……経費にしたやつも?」
「含まれます」
即答だった。
「30万円未満で
一発経費にしたやつも」
「2026年以降の
40万円未満も」
「全部、
償却資産税の対象」
「累計が」
「150万円超えたら」
「1.4%」
「毎年、
払います」
田中は、
思わず天井を見た。
「でも」
ヤマゲンは、
指を一本立てる。
「さっき言うた
一括償却資産」
「10万〜20万で
3年均等のやつ」
「これは
償却資産税の対象外
です」
田中は、
大きく息を吐いた。
「……知らんと
怖すぎますね」
償却資産税の話が終わり、
田中は、少し疲れた表情で言った。
「……青色申告って、
思ってたより
やること多いですね」
「そら、
そうです」
ヤマゲンは、
あっさり言った。
「そう言えば、青色の一番デカい特典
まだ話してまへんでしたな」
田中は、
顔を上げた。
「……65万円控除、
ですよね?」
「それです」
ヤマゲンは、
指を一本立てた。
「多い誤解がな」
ヤマゲンは、
静かに言う。
「青色にしたら
自動的に
65万円引かれる
思てる人」
「それ、
完全にアウト
です」
田中は、
苦笑した。
「……正直、
ちょっと
そう思ってました」
「ほな、
今日聞けて
正解です」
ヤマゲンは、
淡々と続ける。
「65万円控除を
取るには」
「条件があります」
「まず」
「複式簿記」
「家計簿レベル
ちゃいます」
「貸借対照表と
損益計算書が
ちゃんと
つながる帳簿」
「これが
前提です」
田中は、
小さくうなずいた。
「次」
ヤマゲンは、
間を置かず言う。
「電子申告」
「紙で出したら」
「65万円は
もらえません」
「減って」
「55万円
です」
「さらに」
「電子申告もせず
帳簿も甘かったら」
「10万円
まで落ちます」
田中は、
思わずため息をついた。
「差、
大きいですね……」
「せやから」
ヤマゲンは、
即答する。
「65万円控除は
“選ばれた人”の制度
なんです」
「あと」
ヤマゲンは、
少し声を落とした。
「これ、
正直な話ですけど」
「今後、
要件は
緩くなりません」
「税制改正で」
「“形だけ青色”」
「“中身分かってへん人”」
「切られていきます」
田中は、
背筋が伸びた。
「65万円控除ってな」
ヤマゲンは、
はっきり言った。
「国からの
信用ポイント
みたいなもんです」
「ちゃんと
数字を管理して」
「電子申告もして」
「ちゃんと
説明できる人」
「そこまで
できてる人だけ
どうぞ、
って話です」
「さらにな」
「税制改正後は
電子帳簿保存したり
請求書とかの電子保存まですると
65万控除が75万控除になりますねん」
ヤマゲンは、
イチゴポッキーを一本かじった。
カリッ。
「田中さん」
「青色申告ってな」
「節税のための
裏技
ちゃいます」
「固定資産の扱いも」
「65万円控除も」
「全部」
少し間を置く。
「“管理できる人”に
有利な制度
なんです」
「楽したい人には
向いてへん」
「でも」
語気を和らげる。
「会社を続けたい人には
一番、
味方になる制度
です」
田中は、
深くうなずいた。
青色申告。
ただの申告区分だと
思っていた。
でも今は、
会社の覚悟・体力・姿勢
全部を問われている
制度に見えていた。
「ヤマゲンさん」
田中が言う。
「……これ、
青色に“なる”前に
ちゃんと
覚悟決めな
あかんですね」
「正解です」
ヤマゲンは、
イチゴ柄のネクタイを
整えた。
「青色は
“なってから考える”
制度ちゃいます」
「考えた人だけが
使いこなせる制度
です」
田中はめまいがしそうな思いだった。
「せやけど」
ヤマゲンは言った。
「そのために
顧問税理士が付いてますねん」
(あ、ポッキー、足元に一本落ちとった!)
嬉しそうな顔で
無邪気にポッキーを拾い上げるヤマゲンを見て
田中は微笑ましくも
頼もしく思った。
大和源太郎税理士。
ヤマゲン先生。。。
ヤマゲンさん。。。
この人、ホンモノや。
竹岡税務会計事務所
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