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連続税務小説 ヤマゲン 第36話 「山頂で成立した仕訳」

2026/02/05
連続税務小説 ヤマゲン 第36話 「山頂で成立した仕訳」

 ヤマゲンから電話があったのは、
 土曜の夕方だった。


 着信表示を見た瞬間、
 田中 恒一の胸が、
 どくん、と鳴った。


(……まさか)


 頭に浮かんだのは、
 エクセルで作った、
 あの架空の修理代請求書だった。


(もう、
 バレたんか……?)


 一瞬、
 指が止まる。

 だが、
 出ないわけにはいかない。


「……はい、田中です」


『田中さん』

 聞き慣れた声。


『明日、日曜ですやろ』

 拍子抜けするほど、
 軽い口調だった。


『前から言うてたやつです』

『金剛山、
 一緒に登りませんか』


 一瞬、
 頭が追いつかなかった。


 登山?

 山?

 税務の話でも、
 帳簿の話でもない。
 ましてや
 架空請求書の話でもない。

「……登山、ですか」

『せや』

『天気もええみたいやし』

『たまには
 体、動かしましょ』

 その言葉を聞いて、
 田中は、
 ようやく息を吐いた。


(……ちゃうんか)

(まだ、
 気付いてへんのか)

 
 胸の奥に溜まっていたものが、
 すっと下がる。

 
 だが同時に、
 別の感情が湧いた。

 
 安堵と、
 後ろめたさ。


「……分かりました」

「明日、
 よろしくお願いします」


 電話を切ったあと、
 田中は、
 しばらく受話器を見つめていた。

 
 逃げ切れたかもしれない。

 そう思った自分が、
 少しだけ、
 情けなかった。


 翌日の日曜日。
 朝。

 
  田中 恒一は、
 金剛山へと
 車を走らせていた。

 天気で言えば
 いわゆる
 絶好の登山日和。
 
 運転席に差し込む
 朝の光。
 
 潔白過ぎるほどの
 そのまぶしい光が
 田中を
 よりいっそう、
 影へと
 追いやる気がした。


 300万円。

 帳簿に載らない現金。
 架空請求書。

 そして、
 音信不通の麻里子。


(……ヤマゲンは、
 気付いてへんかも知れん)
(わざわざ、

 自分から言わんでも……)


 そんな考えが、
 何度も浮かんでは消える。


 逃げたい。

 だが、
 逃げ切れる気も、
 しなかった。


 金剛山、登山口。

 日差しに反して、
 朝の空気は、

 冷たかった。

 ヤマゲンは、
 すでに来ていた。

 登山慣れした服装。
 表情も軽い。

「お、田中さん、おはようさん」


「おはようございます」


 田中の声は、
 いつもより
 少し硬かった。


「ほな、
 行きましょか」

「絶好の、
 登山日和でっせ」


 ヤマゲンはそう言って、
 登山道の方を指さした。


 歩き始めは、

 まだ余裕があった。


 鳥の声。
 木々の匂い。


 だが、
 次第に傾斜がきつくなる。


 息が上がる。

 太ももが張る。


 田中の頭の中では、
 300万と麻里子が、
 何度も何度も
 行き来していた。


(なんで、
 あんなことを……)

(なんで、

 嘘でごまかそうと
 したんや)


 横を見ると、
 ヤマゲンは平然としている。

 息一つ乱れていない。


(この人、
 なんでこんなに
 体力あるんや……)


 山頂が近づくころ。

 田中は、
 完全にクタクタだった。


 息は荒く、
 足は重い。


 だが、
 ヤマゲンはピンピンしている。


「あー」

 ヤマゲンが言った。


「腹、減りましたなぁ」

「ちょうど昼ですし」

「山小屋、

 ありまっせ」


 金剛山、山頂。

 小さな山小屋があり、

 食堂が併設されていた。
 
 二人は、

 そのまま中に入った。


 田中は、
 椅子に座った瞬間、
 深く息を吐いた。


(今や)

(今、言わな)


 これ以上、
 この人に
 嘘を重ねたくなかった。


「ヤマゲンさん」

 田中は、
 意を決して口を開いた。

「実は……」


 その瞬間。

「田中さん」

 ヤマゲンが、
 さらっと言った。

「どっちでっか?」

(……え?)
田中は、

言葉を飲み込んだ。

「せやから」
「うどん」

「きつねと、たぬき」
「どっちにします?」

 (……え、うどん?)

「あ、あぁ……」
 田中はひと呼吸おいて、
「きつね」とつぶやいた。

「おねーちゃーん」

 ヤマゲンが声を張る。

「きつねうどん、
 2つな!」


 ほどなくして。

「おまたせしました」

 女性店員が、
 盆を持って現れた。
 
 田中は、

 なにげなく顔を上げる。


 ――そして、
 凍りついた。


 麻里子だった。


「……な」

「なんで……」

「こんなとこに……」

 声が震えた。


 麻里子は、
 にやりと笑った。


「田中さん」


「女のあんな言葉に
 騙されたら
 アカンで」


 そう言って、
 田中のうどんの横に
 封筒を置いた。


 ずしり。

 中身は、

 分かっていた。

 300万円。


「ど、どういうことやねん……」

 田中の頭は、
 完全に追いついていなかった。


 そのとき。

 ヤマゲンが、
 ぽつりと言った。


「300万の
 事業主貸が」

 うどんを一口すすり、

「事業主借として
 帰ってきましたな」


 田中は、
 何も言えなかった。


 ただ、

 湯気の立つうどんと、
 麻里子と、
 封筒と、
 何事もなかったかのように
 箸を動かすヤマゲンを
 見ているしかなかった。


 金剛山、山頂。

 田中の人生は、
 この日、
 静かに、
 しかし確実に、
 向きを変え始めていた。

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