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連続税務小説 ヤマゲン 第56話 「源太郎の原点」

2026/02/25
連続税務小説 ヤマゲン 第56話 「源太郎の原点」

 

「なっちゃんは、

 クルマで帰ってくれたらええわ。

 オレ、今日は歩いて帰るから」

 

「え? 

 はい、分かりました。

 お疲れ様でした」

 

 源太郎は、

 夏美の車を見送ると、

 田中の工場から河川敷へと続く道を

 歩き始めた。

 

 川面には、

 街の灯りが揺れる。

 

 30分ほど、

 歩いただろうか。

 

 源太郎は、

 河川敷の、

 ある場所で、

 座った。

 

 対岸には、

 工場の明かり。

 

 その明かりは、

 当時と全く、変わりがない。

 

 変わったのは、

 その隣りにあった空き地に、

 大きなマンションが建ったことだ。

 

 夏の夜の匂いが、

 ふと、胸の奥を揺らす。

 



 中学二年。

 

 一学期が終わる、前夜だった。

 

「げんちゃん、いこか」

 

 クラスメイトの加山雄一は、

  いつもの調子で、源太郎の家に誘いに来た。

 

 明日は終業式。

 

 通知表をもらって、

  そのまま夏休み。

 

 浮き立つような夜だった。

 

 近所の空き地。

 

 隣の町工場の明かりが、
 こうこうと漏れている。

 

 二人は、よくそこで、
 キャッチボールをした。

 

 その夜も、いつも通りのはずだった。

 

 パン、とミットが鳴る。

 

 雄一の球は、少しだけ強かった。

 

 しばし、二人は黙々と投げ合った。

 

 汗が、額に滲み出てきた。

 

「なあ、げんちゃん」

 

 雄一は、ボールを握ったまま言った。

 

「オヤジの会社……つぶれた」

 

 源太郎は、一瞬、聞き取れなかった。


「え、なんて」

 

「倒産や」

 

 ボールが、地面に落ちた。

 

「オヤジの会社、借金、めっちゃあるらしい」


「どうにもならん、らしい」

 

「そやから」

 

「うちの親、離婚するねん」

 

「おれは、お袋の実家、九州に行く」

 

 虫の音だけが、聞こえる。


「ほんまか……」

「うん……」

 

「明日で、学校、最後や」

 

「げんちゃんには」


「ちゃんと言っときたかったから」 

「だって」

「げんちゃん、親友やもん」

 源太郎は、言葉に詰まる。

「げんちゃん、覚えといてくれるか?」

「ん?」

「おれのこと……忘れんといてくれるか?」

「も、もちろんや」

「ゆうちゃんは、おれにとっても、親友や」

「げんちゃん、ありがとう」

「なんや、えらい、辛気臭いやん、
 九州くらい、またいつでも会えるやん」

 軽率な言葉を発したことを、
 源太郎は後悔した。

 大阪と九州。
 その距離は、当時の二人にとって、
 容易ではなかった。

「げんちゃん……」

「ん?」

「ほんまは、おれ、行きとうない」

「そやけど……」

「どうしようもできへん」

「お袋、ボロボロやし」

「おれが一緒におってやらんと」

「オヤジさん、どうなるん?」

「よう分からん」

「お袋も、その話、あまり、したがらへん」

 

「そうか……」


「でもな、いつか、おれ」

「ん?」

「大きい会社の社長になって」

「オヤジとお袋、ラクさせたるねん」

 源太郎は、はっとした。

 この極限の状態で、
 雄一の"大人"を、そこに見たからだ。

「げんちゃん」

「なに?」

「なんやしらんけど……」

「ちょっと泣けてきたわ……」

「涙が、止まれへん……」

 堰を切ったように、
 源太郎も、視界が滲み始めた。

 どうしようもない。

 中学2年生の二人には、なにもできない。

 大人の事情。
 社会の、何かしらのルール。

 そして、
 親友との別れ。

 頭の中が、整理できず、
 ただ、そこに、
 ぐちゃぐちゃな泣き顔をした、
 少年が二人、

 工場の明かりに照らされて、
 立ち尽くしているだけであった。



 翌朝。

 

 終業式。

 

 みな、浮かれていた。

 

「海行くんやろ?」

 

「ゲーム貸してや」

 

 蝉の声が、校庭から響く。

 

 体育館で、校長の話。

 

 そのあと、教室に戻る。

 

 担任が、少し声を落とした。

 

「加山くんは、お家の事情で転校することになりました」

 

 ざわめき。

 

 さっきまでの笑い声が、少しだけ止まる。

 

 雄一が立ち上がる。

 

「みんな、これまでありがとう」

 

「さようなら」

 

 それだけだった。

 

 拍手も、まばらだった。

 

 夏休み前のざわめきの中に、

  その言葉は、静かに沈んだ。

 


 

 帰り道。

 

「加山、おまえんち、倒産したらしいな」

 

「夜逃げでもするんやろ」

 

 笑い声。

 

 雄一は、うつむいた。

 

 源太郎の中で、何かが切れた。

 

 胸ぐらをつかみ、

 拳を振り上げる。

 

「やめて、げんちゃん!」

 

 雄一の声。

 

「もう……ええねん」

 

 涙をこらえながら、

 

「ほんまのことやし」

 

 その一言で、拳が止まった。

 

 掴んでいた手を、ゆっくり離す。

 

 気まずい空気。

 

「げんちゃん、ありがと」

 

「おれ……」

 

 それ以上、言葉は出なかった。


 二人は、その後、黙ったまま、
 家路へと向かった。



 最後の交差点。

 赤信号。

 雄一は、ふと言った。

「げんちゃん、あげるわ」

 雄一は、制服のポケットから、
 イチゴポッキーの箱を取り出した。

 いつも雄一は、
 学校にこっそり持ってきていた。

 先生の目を盗んでは、
 二人でよく食べたものだった。

「ええんか?」

「かまへん、
 今のおれには、
 これくらいしか、
 げんちゃんにあげられへん」

 雄一は、はにかんだ。

「じゃあ」

 そう言うと、
 雄一は、青になった交差点を、
 渡っていった。

「ゆうちゃん!」

 源太郎は叫んだ。

「イチゴポッキー、ありがとうな!」

 雄一は、何も言わず、
 笑って手を上げた。

 もっと他に言うべき言葉がなかったものか……

 しかし、
 そのときの源太郎にとっては、
 それが、精一杯の言葉であった。
 

 

 翌朝。

 

 雄一の家に行った。

 

「加山」の表札が、外されていた。

 

 門の内側は、静まり返っている。

 

 賑やかな家族だった。

 

 もう、誰もいない。

 

 夏は、始まったばかりだった。

 

 だが、

 源太郎の中で、

 何かが終わった。

 

 倒産の意味は、

 まだよく分からなかった。

 

 けれど、

 消えるということは、

 はっきりと分かった。

 

 終業式の前夜。

 

 転がったボール。

 

 親友、雄一の泣き顔。

 

 源太郎にとって、

 田中は、

 どこか雄一と重なるところがある。


 どことなく、風貌が似ている。

「ゆうちゃん、元気にしとるんやろうか」

 河川敷の虫の声はにぎやかだ。

(田中さん、頑張るんやで……)

 

 川面から、気持ちの良い風が吹き始めた。

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