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連続税務小説 ヤマゲン 第57話 「黒字なのに」

2026/02/26
連続税務小説 ヤマゲン 第57話 「黒字なのに」

 

 ヤマゲンは、事務所の机で別の顧問先の資料に目を落としていた。

 

 決算整理の最終チェック。


 残高試算表の数字を一つずつ追っている。

 

 その横で、夏美が田中の月次資料を抱えて立っていた。

 

「先生、田中さんの月次ですが……」

 

 ヤマゲンは顔を上げないまま言った。

 

「一人で行ってきい」

 

 夏美は少しだけ間を置いた。

 

「私だけで、ですか」

 

「うん」

 

 ペン先だけが紙の上を走る。

 

「現場は現場でしか学べん」

 

 そして一言、付け足す。

 

「利益だけ見るなよ」

 

 夏美は、その意味を考える間もなく、

 

「はい」

 

 と答えて事務所を出た。




 工場の事務所に入ると、機械の低い振動音が床を伝ってきた。

 

 机で書類を見ていた田中が顔を上げる。

 

「今日は夏美さん、お一人ですか」

 

 いつもの穏やかな声だ。

 

「はい。先生は別件の決算対応でして。今日は私が伺いました」

 

「そうですか」

 

 田中は立ち上がり、応接テーブルに案内した。

 

「では、月次を見せてください」

 

 夏美は試算表を広げる。

 

 九月は黒字。

 

 売上も伸びている。

 

「九月は利益が出ていますね」

 

「はい。売上も回復しています」

 

 田中は静かにうなずいた。

 

 そして机の横に置いてあった通帳を手に取った。

 

 ページを開き、残高を指で押さえる。

 

「一つ、教えていただけますか」

 

「はい」

 

「うちは、黒字ですよね」

 

「はい」

 

 田中は通帳を軽く叩いた。

 

「ですが、残高が減っています」

 

 夏美は呼吸を整える。

 

「売掛金の回収が翌月になるものがありますので——」

 

「それは理解しています」

 

 田中は静かに言った。

 

「減価償却もありますね。現金が出ていない費用です」

 

「はい」

 

「在庫も増えています」

 

「はい」

 

 田中は通帳を閉じた。

 

「理屈は分かります」

 

 一拍置く。

 

「ですが、実感が伴わないんです」

 

 夏美は言葉を探す。

 

「利益と現金は一致しませんので——」

 

「ええ」

 

 田中はうなずく。

 

「そういうものだと言われれば、その通りなのでしょう」

 

 しかし、そのあとに静かな間が落ちた。

 

「ただ」

 

 田中は試算表を指で軽く叩く。

 

「会社を動かしていると、数字より先に、通帳の残高が目に入るんです」

 

 夏美は黙った。

 

 その言葉には、怒りはない。

 

 だが、重さがあった。

 

「正直に言うと」

 

 田中は続ける。

 

「この試算表を見て、“安心できるか”と言われると……」

 

 言葉を濁す。

 

「腑に落ちないんです」

 

 夏美は、自分の説明が机の上で止まっているのを感じた。

 

「……申し訳ありません」

 

 思わず言っていた。

 

 田中は首を振る。

 

「いえ。説明は分かります」

 

 その言葉が、逆に重い。

 

 理解はしている。

 

 だが、納得はしていない。

 

「一度、整理して改めてご説明してもよろしいでしょうか」

 

 田中は少し考え、うなずいた。

 

「ええ。お願いします」




 事務所に戻ると、ヤマゲンはまだ机に向かっていた。

 

「先生」

 

「どうや」

 

 顔を上げない。

 

「田中さん……納得されませんでした」

 

 ペンが止まる。

 

「怒ったか」

 

「いえ。むしろ冷静でした」

 

 夏美は続ける。

 

「理屈は分かるとおっしゃいました。でも、腑に落ちないと」

 

 ヤマゲンは椅子にもたれた。

 

「お前は何を説明した」


「まず、九月が黒字であるということと」

「ことと?」

「売掛金、減価償却、在庫……利益と現金のズレです」

 

「それで?」

 

「それだけでは足りませんでした」

 

 ヤマゲンは小さくうなずいた。

 

「社長は何を知りたい?」

 

 夏美は少し考える。

 

「安心……でしょうか?」

 

「違う」

 

 ヤマゲンは即座に言った。

 

「判断材料や」

 

 夏美は顔を上げる。

 

「黒字かどうかやない。

 来月、残高がどうなるかや」

 

 ヤマゲンはメモ用紙を引き寄せた。

 

 残高。

 入金。

 支払。

 

 三つの言葉を書く。

 

「社長はな、利益やなくて“残高の未来”を見たいんや」

 

 夏美の頭の中で、何かが繋がった。

 

「通帳の横に、支払予定と入金予定を並べろ」

 

 ヤマゲンは言う。

 

「未来の残高を見せてやれ」




 二日後。

 

 夏美は再び田中の工場を訪れた。

 

「先日はありがとうございました」

 

 机の上に三枚の紙を並べる。

 

 通帳のコピー。

 支払予定一覧。

 そして一枚の表。

 

「これは資金繰りの見通しです」

 

 田中は黙って見ている。

 

「今の残高から、入金予定と支払予定を差し引いていきます」

 

 数字が並ぶ。

 

 途中で残高が大きく減る箇所がある。

 

 田中の指がそこで止まった。

 

「……ここですね」

 

「はい」

 

 夏美はうなずいた。

 

「この瞬間が、社長の違和感の正体です」

 

 田中はしばらく表を見ていた。

 

「……なるほど」

 

 田中は資金繰り表を見たまま言った。

 

「回るかどうか、ですね」

 

「はい」

 

 田中は静かにうなずいた。

 

「分かりました」

 

 完全な納得ではない。

 

 だが、最初にあった距離は、少しだけ縮んでいた。




 帰り道。

 

 夏美は空を見上げた。

 

 理屈は前から知っていた。

 

 だが、経営者が見ているのは、

 

 帳簿や試算表の利益だけではない。

 

 通帳の残高。


 そして、

 その先。

 

 そのことを、


 夏美は今日、少しだけ知った。

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