午後。
事務所の電話が鳴った。
夏美が受話器を取る。
「はい、大和税理士事務所です」
「お世話になります、田中です」
落ち着いた声だった。
「夏美先生でしょうか」
「はい」
「先日いただいた資金繰り表なんですが」
一拍。
「少し気になるところがありまして」
「はい」
「お時間よろしいでしょうか」
その日のうちに、夏美は田中のところへ向かった。
机の上には、先日渡した資金繰り表が広げてある。
赤ペンでいくつか印が付いていた。
田中はその一つを指で押さえた。
「ここなんですが」
残高が大きく減る月だった。
「これを見ていると」
一度言葉を切る。
「黒字倒産という言葉を思い出しまして」
夏美は思わず背筋を伸ばした。
「黒字倒産、ですか」
「ええ」
田中は表を見たまま言う。
「黒字なのに倒産する会社がある、と聞いたことがあります」
一拍。
「こういうことなんでしょうか」
夏美は口を開いた。
「黒字倒産というのは……」
言葉が止まる。
頭の中で説明を探す。
だが、うまく出てこない。
「ええと……」
資料をめくる。
「売上があっても……その……」
額に汗がにじんだ。
「売掛金が……まだ入っていないと……」
自分でも、何を言っているのか分からない。
田中は何も言わない。
ただ静かに待っている。
その沈黙が、夏美には重かった。
「すみません」
夏美は正直に言った。
「うまく説明できません」
田中は少し笑った。
「いえ」
首を振る。
「何となく分かる気はするんです」
資金繰り表を指でなぞる。
「売上があっても」
一拍。
「お金が入るのは後になる」
夏美はうなずく。
「はい」
「でも、支払は先に来る」
田中は表を見つめたまま言った。
「つまり」
一言。
「時間、ですか」
夏美は少し考えた。
そして、小さくうなずく。
「……そうかもしれません」
自信のない返事だった。
田中は資金繰り表を丁寧に畳んだ。
「分かりました」
「少し考えてみます」
夕方。
事務所に戻ると、ヤマゲンは机に向かったままだった。
「どうや」
顔を上げない。
「……うまく説明できませんでした」
ヤマゲンの手が止まる。
「詰まったか」
「はい」
夏美は苦笑した。
「頭では分かっているのに、言葉にならなくて」
「社長、何て言うた」
「黒字倒産の話です」
少し間を置く。
「“時間ですか”って」
ヤマゲンは小さくうなずいた。
「2つある」
「そや」
「まず」
「入る前に、払うからや」
帰り道。
夏美は通帳のコピーをもう一度見直した。
売った金が入る前に、
払う金はやって来る。
その順番が少しずれるだけで、
会社は止まる。
そのことを、
夏美はまだ、うまく説明できない。
だが、
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