数日後の午後。
田中が事務所を訪ねてきた。
応接テーブルに腰を下ろすと、通帳を机の上に置いた。
「夏美先生」
通帳を開く。
「この前の話なんですが」
夏美は顔を上げた。
「黒字倒産の話ですか」
「ええ」
田中は苦笑した。
「資金繰り表を見ていると、確かに怖いですね」
一拍。
「黒字でも、お金は減る」
夏美はうなずいた。
「はい」
田中は通帳の一行を指で押さえた。
「特にこれです」
借入返済の引き落としだった。
「結構な金額です」
「はい」
「毎月これだけ出ていく」
少し間を置く。
「これって……経費ですよね?」
夏美は一瞬、言葉を失った。
「え……」
田中は続ける。
「借入返済です」
「お金は出ていきます」
「だから、経費ですよね?」
夏美の頭の中で、会計の知識が一斉に動き出す。
元本。
利息。
貸借対照表。
だが、言葉がまとまらない。
「借入返済は、その……」
資料をめくる。
「利息は経費ですが……」
そこで止まった。
田中は静かに待っている。
その沈黙が、また少し焦りを呼ぶ。
「元本は……」
言葉を探す。
「ええと……」
うまく説明できない。
夏美は小さく息を吐いた。
「すみません」
正直に言った。
「うまく説明できません」
田中は少し笑った。
「いえ」
首を振る。
「実は私も、よく分からなくて」
通帳を閉じる。
「黒字なのにお金が残らない理由」
一拍。
「この借入返済も関係ありますよね?」
夏美は小さくうなずいた。
「はい……あると思います」
だが、どう説明すればいいのか。
まだ、言葉にならなかった。
そのときだった。
奥の机で書類を見ていたヤマゲンが、顔を上げた。
「借入の話か」
田中は軽く会釈する。
「お世話になります」
「どうも」
ヤマゲンは椅子に腰を下ろした。
通帳をちらりと見る。
「借入返済は経費か、っちゅう話やな」
田中はうなずいた。
「はい」
ヤマゲンは夏美の方を見る。
「借入ってな」
一拍。
「借りたとき、売上になるか?」
夏美は首を振った。
「……なりません」
「そやろ」
ヤマゲンは言う。
「借りた金が売上になって税金かかったら」
「えらいこっちゃ」
田中が小さく笑った。
ヤマゲンは続ける。
「ほな、借入は何や?」
夏美は答える。
「……負債です」
「そや」
ヤマゲンは通帳を指で叩いた。
「借りたときはな」
「預金が増える」
「ほんで」
「借金も増える」
「会計で言うたら」
「預金の増加」
「長期借入金の増加や」
夏美は黙って聞いていた。
ヤマゲンは続ける。
「ほな返したらどうなる」
夏美は少し考えた。
「……預金が減って」
「借入金も減ります」
「そや」
ヤマゲンはうなずいた。
「借入返済はな」
一言。
「経費やない」
「借金が減っとるだけや」
田中はゆっくりうなずいた。
「なるほど」
通帳を閉じる。
「そういうことですか」
田中が帰ったあと、
夏美は机の上の通帳をもう一度見た。
財布からお金が出ていく。
それだけを見ると、
ただ減っているように見える。
だが、
その裏では、
借金も同じだけ減っている。
そのことを、
夏美はようやく
言葉にできそうな気がしていた。
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