ある朝。
夏美は、
東和トンネル工業
を訪れた。
前日の訪問で、
傘を忘れていた。
まだ社員は出社していない。
だが。
ひとり。
社長の東和が、
会社の前の歩道を
掃き掃除していた。
東和は気づき、
穏やかに笑った。
「おはようございます」
「傘、お預かりしてますよ」
「すみません、ありがとうございます」
「もしお時間があれば、
温かいお茶でも召し上がっていって下さい」
社長室へ案内される。
机の上。
ラジオ。
ヘッドホン。
ラジオ英会話のテキスト。
社長は少し照れたように笑った。
「掃除に続いて、
またもやお恥ずかしいところを
見られてしまいました」
そして静かに言った。
「先日は失礼なことを申し上げました」
「お詫びいたします」
社長は続けた。
「私は2代目です」
「周りの方は、皆、
創業者である父のことをよく褒めて下さります」
「立派な人だった」
「偉い人だった」
「尊敬すべき人だった」
東和は苦笑した。
「逆に言えば、
私は、
何もできない、
ボンボン社長だと思われているのです」
「ですから、
取り繕うことに必死でした」
その言葉を聞いた瞬間。
夏美の胸の奥で、
何かが崩れた。
「社長……」
声が震える。
「実は……私もです」
「社長に馬鹿にされないよう、
必死でした」
「税務以外のことも、
必死に勉強しました」
「でも……」
「私は、
税務も会計もまだ未熟な上に」
「他のことも知らないことだらけです」
夏美は、
テーブルの湯呑に視線を落とした。
「それなのに」
「東和社長のことを」
「正直申し上げて、
途中から、
少し、
馬鹿にしていました」
「申し訳ありません」
夏美は、
深々と頭を下げた。
夏美の頬を、
涙が伝う。
自分でも、
なぜ涙が出るのか分からなかった。
東和はハンカチを差し出し、
そして、
静かに言った。
「先生」
「若いうちはね、
それでいいんですよ」
「馬鹿にされたくない、
成長の糧になります」
そして微笑んだ。
「実は、私も……
若いのにしっかりしている先生に、
馬鹿にされたくないと、
背伸びをしていたんです」
しかも……
と、東和は続けた。
「背伸びどころか、
夏美も、微笑んだ。
時刻はまだ、
朝8時すぎ。
従業員がちらほらと出社してくる。
夏美は会社を出た。
電車に乗れば、源太郎の事務所まで15分。
しかし。
夏美は歩きたくなった。
1時間。
歩きながら、思い返した。
ナガバナシ。
イカリオヤジ。
マルナゲ。
イチエン。
ナキゴト。
リソウロン。
ムチャブリ。
そして、
そのとき。
「あっ……」
妖怪だと思っていた社長たち。
しかし。
あの人たちは、
自分の中の、
見たくない部分、
見せてくれた人たち
だったのかも知れない、と。
見た目や年齢、
彼らはみな、
自分そのもの、
あるいは、
夏美はこれまで、
自分と他人とを、
区別して考えていた。
点が、
一気に線になった。
就職浪人。
叔父の源太郎への甘え。
自分の人生と、
本気で向き合ってこなかった。
学歴。
自分でも気づかない内に、
そんな物差しで、
一番、そう思っていたのは。
夏美自身だった。
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