決算月が近づくと、田中 恒一の気持ちは、少し沈んだ。
売上は悪くない。
むしろ、前年より伸びている。
会計ソフトの画面にも、
はっきりと「黒字」と表示されていた。
「……なのに、だ」
通帳を開く。
数字を見て、眉をひそめる。
思っていたほど、残っていない。
材料費は払った。
外注費も払った。
工具も買った。
それでも、
利益は出ているはずだ。
「黒字って……何なんだ?」
独り言が、誰もいない工場に響く。
田中は、作業台に腰を下ろし、
頭の中で簡単に計算してみる。
売上から、経費を引く。
残ったのが、利益。
理屈は、分かる。
でも、
その“利益”が、
現金として、ここにない。
ふと、去年のことを思い出した。
決算が終わり、
税金の通知が来た日。
「……こんなに?」
思わず声が出た。
黒字だから、税金がかかる。
それは理解している。
けれど、
その支払いのとき、
通帳の残高は、
一気に心細くなった。
そのあと、
設備の修理が重なり、
材料の仕入れが続き、
気づけば、資金はギリギリだった。
「黒字なのに、苦しい……」
その感覚が、
また、胸の奥から顔を出す。
田中は、ノートを開き、
こう書いた。
売上
- 経費
= 利益
その下に、もう一行、書き足す。
利益
- 税金
- 設備投資
- 借入返済
= 現金残高
「……ああ、そういうことか」
黒字でも、
お金は出ていく。
しかも、
税金は、
後から、まとめて来る。
売上が入ったときには、
まだ払っていない。
だから、
「使っていいお金」
だと、錯覚してしまう。
田中は、通帳の数字を、
もう一度見た。
そこに並んでいるのは、
“全部使えるお金”ではない。
まだ払っていない税金も、
もう返すと決まっている借入金も、
全部ひっくるめた数字だ。
そのことに、
今さらながら、気づいた。
「……分かってなかったな、俺」
黒字=安心。
そう思っていた。
でも実際は、
黒字は、
責任の始まりでもある。
税金を払う責任。
お金を管理する責任。
その夜、田中は、
一枚の名刺を眺めていた。
以前、同業者の集まりで、
何気なく受け取ったものだ。
――税理士。
特に印象的な会話をしたわけでもない。
ただ、
「製造業、多いですよ」
そう言われたのを、
なぜか覚えている。
名刺を裏返し、
しばらく考える。
黒字なのに苦しい。
それを、
自分一人で解決しようとしてきた。
でも。
この違和感は、
誰かと一緒に考えるべきものなのかもしれない。
田中は、名刺を机の上に置いた。
まだ、電話はしない。
でも、
しまい込むこともしなかった。
黒字なのに残らない。
その理由が、
少しだけ、輪郭を持ち始めていた。
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