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連続税務小説 ヤマゲン 第37話「偶然ではなかった山頂」

2026/02/06
連続税務小説 ヤマゲン 第37話「偶然ではなかった山頂」

 クラブ・リバプールの灯りが、
 すべて落ちた。

 
 グラスを拭く音が、
 店内に静かに響いている。


「ヒロくん、
 今日はもうええよ」


 薫が言うと、
 若いボーイは頭を下げた。


「ママ、お疲れさまでした」

 ドアが閉まり、
 鍵が回る。


 店に残ったのは、
 薫一人だった。

 カウンターに腰を下ろし、
 ふと、思い出す。


 あれは、
 いつだったか。

 ヤマゲンが、
 ふらりと店に来た夜。


「先生、
 相変わらず
 イチゴ柄のネクタイですね」

 

「分かります?」

 

「ええ、
 よう目立ちますから」

 ママは、
 笑いながら言った。

 

「そう言えば先生」

「金属加工で個人事業主の
 タナカコウイチさん、
 知ってはります?」


「あぁ、うちの顧問先やけど」
「なんでママが知ってるんや?」

「田中さん、
 最近、うちの店に
 よう来てくれはるんです」

「ほう」

「でね、
 顧問税理士の先生が、
 いつも
 イチゴ柄のネクタイで、
 いつも
 イチゴポッキーを食べてはる、
 ちょっと変わった人や
 って
 言うもんやから」

「わたし、ピンときて」

 大和 源太郎は
 一瞬考えてから苦笑した。


「ちょっと変わった人、
 それは、余計や」

「しかし、
 世間、

 ほんま狭いなぁ」

「でしょ?」

 

 その時は、
 それだけの話だった。


 それから、
 しばらくして。

 麻里子が、

 突然、店を辞めた。


 電話も出ない。

 メッセージも返らない。

 

 ママは、
 妙に引っかかった。

 

 あの子は、
 手を抜くタイプじゃない。

 

 田中にも、
 他の客にも。

 誰に対しても、
 ちゃんと向き合っていた。

 

(……おかしい)

 

 入社時の書類を、
 薫は引っ張り出した。

 身元保証人。

 青森県。

 父親。


 数日後。

 薫は、
 青森にいた。

 突然現れた薫に、
 麻里子は目を丸くした。


 二人は、
 実家近くの喫茶店に入った。

「……どうして辞めたん」


 沈黙のあと、
 麻里子は、
 ぽつりぽつりと話し始めた。


 父の手術。

 父の借金。

 300万円。


「……田中さんから」

「借りました」


 薫は、
 黙って聞いていた。


「でも……」

「もう、
 返せません」


「使ってしまって」

「顔、
 合わせられへん」

「ママにも……」


 麻里子は、
 泣かなかった。

 ただ、
 小さく震えていた。


 大阪に戻った夜。

 ママは、
 一人、電話をかけた。


「……先生」

『はい』


「ちょっと、
 聞いてほしい話が
 あるんです」


 話を聞き終えたヤマゲンは、
 しばらく黙った。

 300万円。

 架空の修理代。

 

 すべてが、
 一つの線につながった。

 

『……なるほど』

『全部、
 合いましたわ』

 

「先生」

 ママは、
 静かに言った。

 

「麻里子の
 こっちので管理責任は、
 私です」


「300万、
 私が用意します」


「ただし」

「返すのは、
 麻里子本人に
 させようと思うんです」


 ヤマゲンは、
 ゆっくりとうなずいた。

『それで、
 ええと思います』

『せやけど……』

『田中さんにも』

『反省する機会は、
 必要ですな』


 ヤマゲンは、
 金剛山を思い浮かべた。

 山小屋の主の顔。

 すぐに電話をかけた。


「すんません」

「一日だけでええんです」

「アルバイトの子、
 入れられませんか」


 事情は、
 詳しく話さなかった。

 山小屋の主は、
 笑って言った。

「先生の頼みやったら、
 ええですよ」


 そのあと。

 ヤマゲンは、
 麻里子に言った。


 麻里子ちゃんも
 今回の反省のために
 一役買いなさい、と。

「山小屋でな」

「謝らんでええ」

「人前やし」

「その代わり」

「一言だけ、
 刺したって」

「田中さんには、
 それが要る」

 
 そして、ヤマゲンは、
 今回の金剛山計画を伝えた。
 
 麻里子は、
 黙ってうなずいた。


 金剛山、山頂。

 うどんの湯気。

 封筒。

 300万円。

 田中の顔。

 すべては、
 偶然ではなかった。


 クラブ・リバプール。

 閉店後のカウンターで、
 ママは、
 ぽつりと言った。


「先生」

「ありがとうございました」

 

「先生がおらんかったら」

「あの子、
 ほんまに
 犯罪者になるとこでした」

 

 電話の向こうで、
 ヤマゲンが笑った。


『いや』

『ママのおかげですわ』

 

『責任、
 ちゃんと取らはった』

『それだけで、
 十分です』

 

 ママは、
 ふっと笑った。


「正直、私も、
 300万は、
 痛かったな……」

 
「……あっ」
 薫は名案を思いついたように
 言った。

「先生には、
 もっとええボトル、
 入れてもらおうっと」


『ママには
 勝てんわ……』


 夜の街で、
 一つの責任が果たされた。

 

 山の上で、
 一つの仕訳が成立した。

 

 どちらも、
 派手じゃない。

 

 でも――

 誰も、
 取り返しのつかない一線は
 越えずに済んだ。

 

 それが、
 今回の一件の答えだった。

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