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連続税務小説 ヤマゲン 第40話 「臨場」

2026/02/08
連続税務小説 ヤマゲン 第40話 「臨場」

 朝九時すぎ。

 田中 恒一の工場に、

 ヤマゲンと夏美が入った。

 

 機械たちは、

 静まり返っている。

 

「おはようございます」

 

 田中が、

 少し硬い声で頭を下げた。

 

「おはようさん」

 

 ヤマゲンは、

 いつもと変わらぬ調子だった。


 事務所のテーブルには、

 すでに資料が並べられている。

 

 第3期。

 第4期。

 第5期。

 

 請求書、領収書。

 収支のメモ。

 

 そして、

 第4期・第5期の

 総勘定元帳と

 仕訳日記帳。

 

 白色申告の年。

 青色申告以降の年。

 

 帳簿の厚みが、

 そのまま時間を語っていた。

 

 九時四十五分。

 

 ヤマゲンが、

 ふと時計を見て言った。

 

「なっちゃん、

 表、出るで」

 

「え?」

 

 夏美は、

 一瞬きょとんとした。

 

「ちゃんと、

 お迎えせなあかん」

 

「わざわざ、

 ですか?」

 

 そう言いたげな顔を、

 ヤマゲンは横目で見る。

 

「なっちゃん」

 

「相手もな、

 税務署とは言え

 人間や」

 

「ちゃんと

 敬意、払わなあかん」

 

 夏美は、

 何も言わずにうなずいた。

 

 数分後。

 

 工場の前に、

 一台の公用車が止まった。

 

 中から、

 二人の男女が降りてくる。

 

 スーツ姿。

 

 男性は四十前後。

 落ち着いた雰囲気。

 

 女性は、

 まだ若い。

 少し緊張した表情をしている。

 

「おはようございます」

 

 男性が言った。

 

「○○税務署、

 所得課税第3部門、

 上席の△△です」

 

 女性も続く。

 

「同じ部門の

 事務官、

 □□です」

 

 二人は、

 胸ポケットから

 税務署員証を出した。

 

 ヤマゲンと田中が、

 それを確認する。

 

「今日は、

 部下の指導も

 兼ねさせてもろてます」

 

 上席が、

 やわらかく言った。

 

「よろしくお願いします」

 

 田中は、

 改めて頭を下げた。

 

 午前十時すぎ。

 

 税務調査が始まった。

 

 最初は、

 定石どおり。

 

 事業内容の聞き取り。

 

「金属加工とのことですが、

 具体的には

 どういった仕事を?」

 

 質問してくるのは、

 主に事務官の女性だった。

 

「材料は

 お客さんから支給されることが

 多いです」

 

「それに、

 加工を施して

 納品します」

 

 田中は、

 ゆっくり言葉を選びながら答える。

 

「では、

 受注から納品までの、

 物の動きの流れと、

 それに伴う、

 お金の動きの流れを

 教えて下さい」

 

 事務官は、

 四角い枠がいくつも並んだ、

 A4用紙を取り出すと、

 田中の説明を

 そこへ書き込んでいく。

 

(へぇ、こんなのに

 流れを書いていくんだ……)

 

 夏美は、

 興味深そうに、

 そこに記載されていく、

 物とお金のフロー図を

 眺めていた。

 

「あまり、まじまじと、

 見んといて下さい、

 緊張しますので」

 

 事務官が照れ笑いする。

 

「あ、

 ごめんなさい、

 わたし、

 税務調査の立会、

 今日が初めてなもので」

 

「実は、私も今日が、

 デビューなんです」

 

「え、そうなの!

 私たち、お互いデビューなのね!」

 

 夏美は、

 なんだか少し、

 嬉しくなった。

 

 嬉しい、

 と言うよりも、

 緊張と緩和の

 産物かも

 知れない。

 

 事務官の

 若い女性は

 続ける。

 

「従業員は?」

 

「妻と、

 私の二人です」

 

「忙しい時期は

 いつ頃ですか?」

 

「納期が

 重なると

 大変そうですね」

 

 思っていたより、

 穏やかだった。

 

 若い女性が、

 ふたり居ることもあり、

 

 田中の肩から、

 少しずつ力が抜けていく。

 

 ヤマゲンは、

 目を閉じたまま、

 会話を聞いていた。

 

 正午前。

 

 ふとヤマゲンが

 発する。

 

「ぼちぼち、

 昼でんな」

 

「そうですね、

 お昼休みにしましょうか」

 

 上席が答える。

 

「午後一時すぎに、

 また戻ります」

 

 税務署員二人は、

 そう言って工場を出た。

 

 ドアが閉まる。

 

 静寂。

 

「ひとまず、

 お疲れさんです」

 

 ヤマゲンが言った。

 

「……思ったより、

 大丈夫そうですね」

 

 田中が、

 思わず口にする。

 

 夏美も、

 小さくうなずいた。

 

 ヤマゲンは、

 二人を見て言った。

 

「まだや」

 

「午前中はな、

 アウトラインだけや」

 

「午後からが、

 本番です」

 

「気、

 抜いたら

 あきまへん」

 

 田中は、

 背筋を伸ばした。

 

 午後一時すぎ。

 

 約束どおり、

 税務署員二人が戻ってきた。

 

「では、

 資料を拝見します」

 

 第3期から第5期。

 

 申告書。

 請求書。

 領収書。

 

 第3期・4期の

 総勘定元帳。

 仕訳日記帳。

 

 賃金台帳。

 源泉徴収簿。

 

 調査は、

 具体的な中身に入っていく。

 

 主導は、

 若い事務官だった。

 

 合間、

 ちらりと上席を見る。

 

 上席は、

 小さくうなずく。

 

 第4期。

 第5期。

 

「こちらは、

 きちんと

 処理されていますね」

 

 事務官が言う。

 

 上席も、

 同意するように

 うなずいた。

 

「ただ……」

 

 事務官が、

 貼り付けた、

 何枚かの付せんの

 領収書に

 指を止める。

 

「第3期ですが」

 

 空気が、

 少し張った。

 

「交際費の金額が

 大きいようです」

 

「海外旅行や、

 クラブでの飲食が

 目立ちますが……」

 

「接待相手が

 領収書に記載されていません」

 

「どなたを

 接待されたのですか?」

 

 田中の喉が、

 鳴った。

 

 目だけ、

 ヤマゲンを見る。

 

 ヤマゲンは、

 何も言わない。

 

 ただ、

 小さくうなずいた。

 

 ――自分で答えなさい。

 

 そう言われている気がした。

 

「……海外旅行は」

 

「妻と二人で、

 仕事の慰労を兼ねて

 行きました」

 

「クラブは……」

 

 一拍置く。

 

「仕事で疲れて、

 気分転換に

 一人で行ってました」

 

 事務官は、

 即座に言った。

 

「それは、

 経費には

 認められませんね」

 

 事前に、

 ヤマゲンから

 聞いていた言葉だった。

 

 上席が、

 やや表情を和らげる。

 

「お気持ちは、

 分かるんですけどね」

 

「税法上は、

 難しいです」

 

 午後三時前。

 

 田中の妻が、

 コーヒーを

 四人分持ってきた。

 

「少し、

 休憩なさってください」

 

 そのとき。

 

 ヤマゲンは、

 上席の

 スーツのポケットに

 ふくらみを見た。

 

 煙草だ。

 

「上席はん」

 

 ヤマゲンが、

 にやりと笑う。

 

「ちょっと、

 一服しまひょか」

 

 そう言って、

 工場の外へ

 上席を誘った。

 

 午後の空気は、

 静かだった。

 

 調査は、

 まだ終わらない。

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