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連続税務小説 ヤマゲン 第61話 「銀行の目」

2026/03/02
連続税務小説 ヤマゲン 第61話 「銀行の目」

 

 数日後。

 

 田中が事務所を訪ねてきた。

 

 応接テーブルに腰を下ろすと、少し考えるような顔をした。

 

「夏美先生」

 

「はい」

 

「銀行の担当が、来週また来るそうなんです」

 

 夏美はうなずいた。

 

「資金の話ですか?」

 

「ええ」

 

 田中は少し笑った。

 

「この前、黒字倒産の話を聞いたでしょう」

 

 一拍。

 

「銀行って、どこを見てるんですか」

 

 夏美は少し考えた。

 

「決算書だと思います」

 

「やっぱり利益ですか?」

 

「はい……利益も見ます」

 

 言いながら、言葉を探す。

 

「それから」

 

「借入金の残高とか……」

 

 田中は黙って聞いている。

 

 夏美は続けた。

 

「資金繰りも見ていると思います」

 

 そのときだった。

 

「銀行はな」

 

 後ろから声がした。

 

 ヤマゲンだった。

 

 奥の机からこちらを見ている。

 

「利益も見る」

 

 一拍。

 

「せやけど」

 

 椅子から立ち上がり、応接テーブルの方へ歩いてきた。

 

「一番見るのは」

 

 一言。

 

「返せるかどうかや」

 

 田中は腕を組んだ。

 

「返せるかどうか……」

 

 ヤマゲンはうなずいた。

 

「銀行はな」

 

 一拍。

 

「貸した金が」

 

「ちゃんと戻ってくるか」

 

「それだけ見とる」

 

 夏美は静かに聞いている。

 

 ヤマゲンは続けた。

 

「利益が出てても」

 

「返されへん会社には」

 

「貸されへん」

 

 一拍。

 

「逆に」

 

「利益が少なくても」

 

「ちゃんと返せる会社には」

 

「貸す」

 

 田中はゆっくりうなずいた。

 

「なるほど」

 

「銀行は」

 

 一拍。

 

「利益より返済を見るんですね」

 

 ヤマゲンは小さく笑った。

 

「そういうことや」

 

 通帳を軽く指で叩く。

 

「銀行はな」

 

 一拍。

 

「この残高より」

 

「この先を見る」

 

 夏美は顔を上げた。

 

 ヤマゲンは静かに言った。

 

「来月」

 

「再来月」

 

「その先」

 

 一拍。

 

「ちゃんと返せるか」

 

「そこを見る」

 

 田中はゆっくりうなずいた。

 

「銀行の目は」

 

「未来を見てるわけですね」

 

 ヤマゲンは答えなかった。

 

 ただ小さく笑った。




 田中が帰ったあと、

 

 事務所は少し静かになった。

 

 夏美は試算表を見つめていた。

 

 利益。

 

 借入。

 

 仕掛品。

 

 通帳の残高。

 

 そして、

 

 その先の資金繰り。

 

 会社は、

 

 今日だけで動いているわけではない。

 

 明日、

 

 そしてその先まで、

 

 続いていく。

 

 そのことを、

 

 夏美はまた一つ、


 理解し始めていた。

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