春の午後。
事務所の窓から、柔らかい光が入っていた。
夏美は机の前に立っていた。
手には一枚の紙。
日商簿記検定二級
合格通知。
ヤマゲンはそれをちらりと見て、
小さくうなずいた。
「受かったか」
「はい」
「おめでとうさん」
それだけだった。
夏美は少し笑う。
「もうちょっと喜んでくれてもいいのに」
ヤマゲンは試算表から目を離さない。
「簿記2級は」
「スタートラインや」
夏美は肩をすくめた。
だが、
自分でも分かっていた。
確かに、
見える景色が変わっていた。
今までは、
売上と経費を中心に
数字を見ていた。
会計ソフトに
ヤマゲンに教わった通りに
入力していけば、
数字はきれいに表になる。
どこか間違いがあっても、
最後はヤマゲンが
全部尻拭いしてくれる。
そんな感覚だった。
だが、
複式簿記を学んでからは、
違う。
売上が立てば、
売掛金が動く。
仕入をすれば、
買掛金や在庫が動く。
利益の裏で、
資産や負債が
必ず動いている。
「損益は、あとでええ」
常日頃からそう言っていた、
つながって見えるようになっていた。
ふと、ヤマゲンが言った。
「なっちゃん」
「はい」
「そろそろ」
一言。
「考えた方がええ」
夏美は首をかしげる。
「何をですか」
ヤマゲンは言った。
「これからや」
少し間を置く。
「今はな」
「就職浪人中や」
「お前のお母ちゃんから、頼まれて」
「うちで面倒見とる」
夏美は黙った。
それは、
自分でも分かっていることだった。
大学を卒業して、
就職は決まらなかった。
だから今、
夏美は、叔父の税理士事務所に通っている。
ヤマゲンは続ける。
「せやけど、見事に、2級、一発合格した」
「せやったら」
一言。
「ここで働くか」
「他へ行くか」
「ぼちぼち」
「決めてもええ頃や」
夏美は答えられなかった。
仕事は、
面白い。
会社の数字。
お金の流れ。
社長の夢と悩み。
すべてが
どこかでつながっている。
だが、
同時に思う。
税金。
お金。
会社経営。
すべて
簡単な世界ではない。
むしろ、
とても厳しい世界だ。
自分に、
できるのだろうか。
この先、
腰を据えて税務の世界で働いていく場合、
税理士試験を受けて、
資格まで取れるのだろうか。
ヤマゲンは試算表に目を戻したまま言った。
「せやから」
ペンを止める。
「とりあえず」
「田中さんの工場に加えて」
「顧問先」
「7件」
一言。
「担当してみい」
夏美は思わず顔を上げた。
「7件、ですか?」
「そや」
ヤマゲンは淡々と言う。
「色んな社長」
「おる」
「無茶言う社長」
「きっちりした社長」
「いつも金に困っとる社長」
一言。
「全部」
「見てこい」
夏美は少し考えた。
そして聞いた。
「でも」
「どうして7件なんですか?」
ヤマゲンは少しだけ笑った。
「まぁ」
一言。
「そのうち」
「分かる」
それ以上、
何も言わなかった。
答えは
与えない。
それが
ヤマゲンのやり方だった。
夏美はゆっくりうなずいた。
机の上の合格通知を
そっと鞄にしまう。
これから、
竹岡税務会計事務所
経営が見えない!を数字でクリアに。
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