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連続税務小説 ヤマゲン
2026/03/07
連続税務小説 ヤマゲン 第66話 「元入金」  

 夜。

 夏美はノートを開いた。

 

 昨日のページ。

 

 事業主貸

 事業主借

 

 その下に書いてある。

 

 ↓

 

 元入金

 

 夏美はペンを止めた。

 

「元入金……」

 

 資本金のようなもの。

 

 ヤマゲンはそう言っていた。

 

 だが、

 

 どうしても気になることがあった。

 

「いくらなんだろう」




 翌日。

 

 事務所。

 

 夏美はヤマゲンに聞いた。

 

「先生」

 

「なんや」

 

「元入金って」

 

「いくらなんですか」

 

 ヤマゲンは少し笑った。

 

「いくらでもない」

 

 夏美は首をかしげる。

 

「え?」

 

 ヤマゲンは言った。

 

「会社やったらな」

 

「資本金は決まっとる」

 

「せやけど」

 

 一言。

 

「個人事業はちゃう」

 

 試算表を引き寄せる。

 

「元入金はな」

 

「毎年変わる」

 

 夏美は驚いた。

 

「変わるんですか」

 

「変わる」

 

 ヤマゲンは紙に書いた。

 

 元入金

 + 利益

 + 事業主借

 - 事業主貸

 

「これや」

 

 夏美はノートを見る。

 

 少しずつ理解していく。

 

 利益。

 

 立替。

 

 生活費。

 

 それが全部、

 

 元入金に入る。

 

 ヤマゲンは言った。

 

「個人事業はな」

 

 一言。

 

「社長の財布で回っとる」

 

 夏美は笑った。

 

 昨日も似た言葉を聞いた気がする。

 

 ヤマゲンは続けた。

 

「せやから」

 

「元入金は」

 

「動く」

 

 一言。

 

「毎年な」




 その日の夜。

 

 夏美はノートを開いた。

 

 ゆっくり書く。

 

 元入金

 + 利益

 + 事業主借

 - 事業主貸

 

 少し考えてから、

 

 もう一行書いた。

 

 個人事業

 =

 社長の財布

 

 夏美はノートを閉じた。

 

 簿記の世界は、

 

 まだ難しい。

 

 だが、

 

 少しずつ


 形が見えてきた気がした。

連続税務小説 ヤマゲン
2026/03/06
連続税務小説 ヤマゲン 第65話 「事業主貸と事業主借」  

 夜。

 

 夏美は机に向かっていた。

 

 簿記2級のテキスト。

 

 ノート。

 

 仕訳の問題。

 

 ページの上に書かれている。

 

 事業主貸。

 

 事業主借。

 

 夏美はペンを止めた。

 

「……」

 

 貸。

 

 借。

 

 また出てきた。

 

「貸す」

 

「借りる」

 

 そういう意味だろうか。

 

 だが、

 

 説明を読んでも、

 

 どうもしっくり来ない。

 

 事業主貸。

 

 事業主借。


 夏美は首をかしげた。



 翌日。

 

 事務所。

 

 夏美はテキストを机に置いた。

 

「先生」

 

「なんや」

 

「事業主貸と事業主借って」

 

「何ですか」

 

 ヤマゲンは少し笑った。

 

「個人事業やからや」

 

 夏美は首をかしげる。

 

 ヤマゲンは言った。

 

「会社やったらな」

 

「社長と会社は別や」

 

「せやから」

 

「会社の口座から生活費を出す」

 

「そんなことは普通せん」

 

 夏美はうなずいた。

 

 ヤマゲンは続ける。

 

「でも」

 

「個人事業はちゃう」

 

 一言。

 

「同じ人間や」

 

 紙を一枚取る。

 

 ペンで書く。

 

 事業主貸 / 普通預金

 

「事業の口座から」

 

「生活費を出した」

 

「こうなる」

 

 夏美は言った。

 

「事業主貸」

 

「そうや」

 

 ヤマゲンは続けた。

 

 消耗品費 / 事業主借

 

「今度は逆や」

 

「社長の金で」

 

「事業の消耗品を買うた」

 

「この場合」

 

「事業が社長から金を借りた形になる」

 

 夏美はうなずく。

 

「事業主借」

 

「そういうことや」

 

 夏美は少し考えた。

 

「でも」

 

「これ……」

 

「貸したり借りたりしてるなら」

 

 一言。

 

「あとで返さないといけないんですか?」

 

 ヤマゲンは笑った。

 

「そこや」

 

 紙を指で叩く。

 

「法人やったら」

 

「返す」

 

「せやけど」

 

 一言。

 

「個人事業はちゃう」

 

 夏美は首をかしげる。

 

 ヤマゲンは言った。

 

「社長と」

 

「事業」

 

「同じ人間や」

 

「自分の財布から」

 

「自分の財布へ」

 

「金を動かしとるだけや」

 

 夏美は小さく笑った。

 

「確かに」

 

 ヤマゲンは続けた。

 

「せやから」

 

「返済とか」

 

「そういう話やない」

 

 そして紙にもう一行書いた。

 

 事業主貸

 事業主借

 ↓

 元入金

 

「決算のときな」

 

「この二つは」

 

「元入金に入れる」

 

 夏美はノートを見る。

 

「元入金……」

 

 ヤマゲンは言った。

 

「個人事業の資本や」

 

「会社で言うたら」

 

「資本金みたいなもんや」

 

 そして少し笑った。

 

「まあ」

 

「今はな」

 

「会計ソフトの時代や」

 

「年度繰越のときに」

 

「ソフトが」

 

「勝手にやってくれる」

 

 夏美も笑った。

 

「じゃあ」

 

「覚えなくてもいいんですか?」

 

 ヤマゲンは首を振った。

 

「理屈は」

 

「知っとけ」

 

 一言。


「簿記やからな」



 その日の夜。

 夏美はノートを開いた。

 

 ゆっくり書く。

 

 事業主貸 / 普通預金

 

 生活費。

 

 そしてもう一つ。

 

 消耗品費 / 事業主借

 

 立替。

 

 しばらく見つめてから、

 

 もう一行書いた。

 

 事業主貸

 事業主借

 ↓

 元入金

 

 個人事業の帳簿は、

 

 社長の生活と

 

 切り離せない。

 

 夏美はノートを閉じた。

 

 簿記の世界が、

 

 また一つ


 つながった気がした。




連続税務小説 ヤマゲン
2026/03/05
連続税務小説 ヤマゲン 第64話 「借方と貸方」  

 

 夜。

 

 夏美は机に向かっていた。

 

 簿記2級のテキスト。

 

 ノート。

 

 ペン。

 

 仕訳の問題。

 

 ページの上に書かれている。

 

 借方。

 

 貸方。

 

 夏美はペンを止めた。

 

 ノートを見る。

 

 借方。

 

 貸方。

 

 左右に分かれている。

 

「借りる」

 

「貸す」

 

 そういう意味だと思っていた。

 

 だが、

 

 問題を解くと、

 

 どうも違う。

 

 材料仕入高は借方。

 

 売上は貸方。

 

 借入金は貸方。

 

 夏美は首をかしげた。

 

「なんで……?」




 翌日。

 

 事務所。

 

 夏美はテキストを机に置いた。

 

「先生」

 

「なんや」

 

「借方と貸方って」

 

「何ですか」

 

 ヤマゲンは少し笑った。

 

「そこか」

 

 紙を一枚取る。

 

 真ん中に線を引いた。

 

 左。

 

 右。

 

「これが」

 

「仕訳や」

 

 左を指す。

 

「借方」

 

 右を指す。

 

「貸方」

 

 夏美は言った。

 

「でも」

 

「なんで借方と貸方なんですか」

 

 ヤマゲンはペンを取った。

 

 紙に書く。

 

Debit

 

Credit

 

「英語や」

 

「デビット」

 

「クレジット」

 

 夏美は少し驚いた。

 

「英語なんですか」

 

「西洋の簿記や」

 

 ヤマゲンは続けた。

 

「明治の日本人が」

 

「これを」

 

「借方」

 

「貸方」

 

 と訳した。

 

 夏美はノートを見る。

 

「じゃあ」

 

「借りるとか貸すとか」

 

「そういう意味ですか」

 

 ヤマゲンは首を振った。

 

「ちゃう」

 

 一言。

 

「ただの名前や」

 

 紙の線を指で叩く。

 

「左」

 

「右」

 

「それだけや」

 

 夏美は少し笑った。

 

「意味はないんですね」

 

「ない」

 

 ヤマゲンは言った。

 

「簿記はな」

 

「言葉やない」

 

 一言。

 

「ルールや」

 

 そして続けた。

 

「もう一つ」

 

「ええ方法教えたる」

 

 夏美は顔を上げた。

 

 ヤマゲンは紙を指でなぞる。

 

 材料仕入高 / 買掛金

 

「仕訳を書くときな」

 

「声に出せ」

 

 夏美はきょとんとする。

 

「声に?」

 

「そうや」

 

 ヤマゲンはゆっくり言った。

 

「借方 材料仕入高、貸方 買掛金」

 

 少し笑う。

 

「こうやって」

 

「口に出す」

 

「借方***」「貸方***」

 

 指で紙を叩く。

 

「これをな」

 

「毎回やる」

 

「そのうち」

 

 一言。

 

「体が覚える」

 

 夏美はうなずいた。

 

「なるほど」

 

 ヤマゲンは言った。

 

「簿記はな」

 

「頭で覚えるもんやない」

 

 一言。

 

「手で覚える」

 

 その日の夜。

 

 夏美はテキストを開いた。

 

 ノートを取り出す。

 

 ゆっくり書く。

 

 材料仕入高 / 買掛金

 

 そして、

 

 小さな声で言った。

 

「借方 材料仕入高」「貸方 買掛金」

 

 もう一度書く。

 

 今度は、

 

 少しはっきりした声で。

 

「借方 材料仕入高」「貸方 買掛金」

 

 左。

 

 右。

 

 意味は考えない。

 

 ただ、

 

 ルールをなぞる。

 

 夏美はノートを閉じた。

 

 簿記はまだ難しい。

 

 だが、

 

 昨日より、

 

 少しだけ


 前に進んだ気がした。

連続税務小説 ヤマゲン
2026/03/03
連続税務小説 ヤマゲン 第63話 「仕訳」  

 

 夜。

 

 夏美は机の上に本を置いた。

 

 日商簿記2級。

 

 昨日、本屋で買ったテキストだった。

 

 ページを開く。

 

 最初の章。

 

 簿記の基本。

 

 そして、

 

 大きく書かれていた。

 

 仕訳。

 

 夏美は少し眉をひそめる。

 

「仕訳……」

 

 ページをめくる。

 

 勘定科目が並んでいる。

 

 材料仕入高。

 

 売上。

 

 借入金。

 

 左右に分かれた形。

 

 まだ、うまく頭に入ってこない。




 翌日。

 

 事務所。

 

 夏美はテキストを机に置いた。

 

「先生」

 

「なんや」

 

「仕訳って、何ですか」

 

 ヤマゲンは少し笑った。

 

「そこか」

 

 夏美はうなずく。

 

「最初に出てくるんですけど」

 

「まだ、よく分からなくて」

 

 ヤマゲンは紙を一枚引き寄せた。

 

「今までな」

 

「売上は売上」

 

「借入は借入」

 

「別々に考えとったやろ」

 

 夏美はうなずく。

 

「はい」

 

 ヤマゲンは言った。

 

「でもな」

 

「複式簿記を勉強すると」

 

 一言。

 

「商売の動きは」

 

「全部」

 

「仕訳で説明できる」

 

 夏美は黙って聞いている。

 

 ヤマゲンはペンを取った。

 

 紙に書く。

 

 材料仕入高 / 買掛金

 

「材料を仕入れた」

 

「まだ金は払っとらん」

 

「せやから」

 

「買掛金や」

 

 夏美はうなずいた。

 

 田中の工場の棚が頭に浮かぶ。

 

 金属の材料。

 

 削りかけの部品。

 

 ヤマゲンは続けた。

 

 普通預金 / 借入金

 

「銀行から金を借りた」

 

「これや」

 

 さらに書く。

 

 売掛金 / 売上高

 

「製品が売れた」

 

「せやけど」

 

「金はまだ入っとらん」

 

「だから」

 

「売掛金や」

 

 ヤマゲンはペンを置いた。

 

「材料仕入高」

 

「借入金」

 

「売上高」

 

 一つずつ指で示す。

 

「今まで」

 

「別々に考えとったやろ」

 

 夏美はうなずく。

 

 ヤマゲンは言った。

 

「でもな」

 

 一言。

 

「全部」

 

「仕訳や」

 

 紙を夏美に渡す。

 

「商売はな」

 

 一言。

 

「仕訳で動いとる」

 

 夏美は紙を見つめた。

 

 左と右。

 

 ただそれだけの形。

 

 だが、

 

 そこに会社の出来事が並んでいる。

 

 売上。

 

 借入。

 

 材料。

 

 昨日まで、

 

 別々のものだと思っていた。

 

 それが、

 

 同じ形で書かれている。

 

 夏美は小さくうなずいた。

 

「……なるほど」

 

 ヤマゲンは笑った。

 

「分かってきたやろ」




 その日の夜。

 

 夏美はテキストを開いた。

 

 仕訳のページ。

 

 ノートを取り出す。

 

 ゆっくり書く。

 

 材料仕入高 / 買掛金

 

 田中の工場の棚が頭に浮かぶ。

 

 まだ削られていない金属。

 

 まだ納品されていない部品。

 

 夏美はもう一つ書いた。

 

 売掛金 / 売上

 

 会社の出来事は、

 

 全部、

 

 仕訳になる。

 

 夏美はノートを閉じた。

 

 会計の世界が、

 

 少しだけ


 つながった気がした。

連続税務小説 ヤマゲン
2026/03/03
連続税務小説 ヤマゲン 第62話 「簿記」  

 

 午後。

 

 事務所は静かだった。

 

 ヤマゲンは机で書類を見ている。

 

 夏美はその横で、試算表を眺めていた。

 

 田中の月次資料だった。

 

 売上。

 

 仕掛品。

 

 借入。

 

 資金繰り。

 

 ここ最近、頭の中で何度も整理している数字だ。

 

 ヤマゲンが言った。

 

「なっちゃん」

 

 夏美は顔を上げた。

 

「はい」

 

「簿記、受けてみい」

 

 夏美は少し驚いた。

 

「簿記ですか?」

 

「日商簿記や」

 

 ヤマゲンは言う。

 

「2級」

 

 夏美は少し考えた。

 

「2級……ですか」

 

 ヤマゲンは試算表を指で叩いた。

 

「ここに書いてあること」

 

「全部、簿記や」

 

 夏美は黙って聞いている。

 

 ヤマゲンは続けた。

 

「仕掛品」

 

「借入」

 

「資金繰り」

 

「銀行」

 

 一つずつ言う。

 

「全部」

 

 一言。

 

「簿記や」

 

 そして、少し声を落とした。

 

「なっちゃん」

 

「そろそろな」

 

「資産が増えた」

 

「負債が減った」

 

「収益が出た」

 

「費用が出た」

 

「そういう目で」

 

 試算表を軽く叩く。

 

「商売を見る練習した方がええ」

 

「それが」

 

 一言。

 

「複式簿記や」

 

 夏美はゆっくりうなずいた。




 その日の夜。

 

 夏美は自宅でパソコンを開いた。

 

 検索欄に入力する。

 

 日商簿記検定。

 

 画面に説明が並ぶ。

 

 3級。

 

 2級。

 

 1級。

 

 夏美は2級を開いた。

 

 工業簿記。

 

 材料。

 

 製造原価。

 

 仕掛品。

 

 見慣れない言葉が並んでいる。

 

「……難しそう」

 

 少し考えて、ページを戻る。

 

 3級。

 

 仕訳。

 

 帳簿。

 

 試算表。

 

 こちらの方が分かりやすそうだった。

 

「3級の方が、いいかも」




 翌日。

 

 事務所。

 

 夏美はヤマゲンに言った。

 

「先生」

 

「簿記、調べてみました」

 

「おう」

 

「2級って工業簿記が入るんですね」

 

「そや」

 

 夏美は少し笑った。

 

「3級の方が簡単そうです」

 

 ヤマゲンは顔を上げた。

 

「やめとき」

 

 夏美はきょとんとする。

 

「え?」

 

 ヤマゲンは椅子にもたれた。

 

「3級はな」

 

「実務的やない」

 

 夏美は首をかしげた。

 

「そうなんですか?」

 

 ヤマゲンは言う。

 

「全く役に立たん訳やない」

 

「せやけどな」

 

「なっちゃんには」

 

「逆に分かりづらい」

 

 夏美は黙って聞いている。

 

 ヤマゲンは続けた。

 

「3級は」

 

「教科書の世界や」

 

「仕訳」

 

「帳簿」

 

「試算表」

 

「そこまでや」

 

 そして言う。

 

「でも」

 

「現場はちゃう」

 

「借入」

 

「資金繰り」

 

「仕掛品」

 

「銀行」

 

 一つずつ言う。

 

「昨日までやっとった話や」

 

 夏美は思わずうなずいた。

 

 ヤマゲンは言った。

 

「2級はな」

 

「そこが出てくる」

 

 そして、

 

 一言。

 

「せやから」

 

「2級や」




 その日の帰り。

 

 夏美は駅前で足を止めた。

 

 本屋の明かりがついている。

 

 少し迷ってから、扉を押した。

 

 店の奥に、資格試験の棚があった。

 

 日商簿記。

 

 3級。

 

 2級。

 

 夏美は手を伸ばした。

 

 2級のテキスト。

 

 少し厚い。

 

 ぱらぱらとページをめくる。

 

 材料。

 

 製造原価。

 

 仕掛品。

 

 田中の工場で見てきた言葉だった。

 

 夏美は本を閉じた。

 

 そのまま、レジへ持っていく。

 

 店を出ると、夜の空気が少し冷たかった。

 

 本を抱えながら、夏美は歩き出した。

 

 会計は、

 

 まだ知らない言葉ばかりだ。

 

 だが、

 

 その言葉の向こうに、

 

 会社の姿がある。

 

 夏美はそれを、

 

 少しずつ


 知り始めていた。

連続税務小説 ヤマゲン
2026/03/02
連続税務小説 ヤマゲン 第61話 「銀行の目」  

 

 数日後。

 

 田中が事務所を訪ねてきた。

 

 応接テーブルに腰を下ろすと、少し考えるような顔をした。

 

「夏美先生」

 

「はい」

 

「銀行の担当が、来週また来るそうなんです」

 

 夏美はうなずいた。

 

「資金の話ですか?」

 

「ええ」

 

 田中は少し笑った。

 

「この前、黒字倒産の話を聞いたでしょう」

 

 一拍。

 

「銀行って、どこを見てるんですか」

 

 夏美は少し考えた。

 

「決算書だと思います」

 

「やっぱり利益ですか?」

 

「はい……利益も見ます」

 

 言いながら、言葉を探す。

 

「それから」

 

「借入金の残高とか……」

 

 田中は黙って聞いている。

 

 夏美は続けた。

 

「資金繰りも見ていると思います」

 

 そのときだった。

 

「銀行はな」

 

 後ろから声がした。

 

 ヤマゲンだった。

 

 奥の机からこちらを見ている。

 

「利益も見る」

 

 一拍。

 

「せやけど」

 

 椅子から立ち上がり、応接テーブルの方へ歩いてきた。

 

「一番見るのは」

 

 一言。

 

「返せるかどうかや」

 

 田中は腕を組んだ。

 

「返せるかどうか……」

 

 ヤマゲンはうなずいた。

 

「銀行はな」

 

 一拍。

 

「貸した金が」

 

「ちゃんと戻ってくるか」

 

「それだけ見とる」

 

 夏美は静かに聞いている。

 

 ヤマゲンは続けた。

 

「利益が出てても」

 

「返されへん会社には」

 

「貸されへん」

 

 一拍。

 

「逆に」

 

「利益が少なくても」

 

「ちゃんと返せる会社には」

 

「貸す」

 

 田中はゆっくりうなずいた。

 

「なるほど」

 

「銀行は」

 

 一拍。

 

「利益より返済を見るんですね」

 

 ヤマゲンは小さく笑った。

 

「そういうことや」

 

 通帳を軽く指で叩く。

 

「銀行はな」

 

 一拍。

 

「この残高より」

 

「この先を見る」

 

 夏美は顔を上げた。

 

 ヤマゲンは静かに言った。

 

「来月」

 

「再来月」

 

「その先」

 

 一拍。

 

「ちゃんと返せるか」

 

「そこを見る」

 

 田中はゆっくりうなずいた。

 

「銀行の目は」

 

「未来を見てるわけですね」

 

 ヤマゲンは答えなかった。

 

 ただ小さく笑った。




 田中が帰ったあと、

 

 事務所は少し静かになった。

 

 夏美は試算表を見つめていた。

 

 利益。

 

 借入。

 

 仕掛品。

 

 通帳の残高。

 

 そして、

 

 その先の資金繰り。

 

 会社は、

 

 今日だけで動いているわけではない。

 

 明日、

 

 そしてその先まで、

 

 続いていく。

 

 そのことを、

 

 夏美はまた一つ、


 理解し始めていた。

連続税務小説 ヤマゲン
2026/03/01
連続税務小説 ヤマゲン 第60話 「在庫とカネ」  

 数日後。

 

 夏美は田中の工場に来ていた。

 

 旋盤の音が響いている。

 油の匂いが少し強い。

 

 田中は機械を止め、手袋を外した。

 

「夏美先生」

 

「こんにちは」

 

 田中は工場の奥を指さした。

 

「ちょっと見てもらえますか」

 

 二人は棚の前に立った。

 

 箱がいくつも並んでいる。

 

 中には、途中まで削られた金属の部品が入っていた。

 

「これ」

 

 田中が言う。

 

「まだ完成してない部品です」

 

 夏美はうなずいた。

 

「在庫、つまり、仕掛品ですね」

 

「ええ」

 

 田中は腕を組んだ。

 

「材料は買っています」

 

「私が削っています」

 

「機械も回しています」

 

 一拍。

 

「だから、経費ですよね?」

 

 夏美は一瞬、言葉を失った。

 

「え……」

 

 田中は続ける。

 

「材料代も払っています」

 

「加工もしています」

 

「電気も使っています」

 

「だから経費ですよね?」

 

 夏美は棚の部品を見た。

 

 削りかけの金属。

 

 まだ製品ではない。

 

「その……」

 

 言葉を探す。

 

「まだ完成していないので……」

 

 説明がうまくまとまらない。

 

 そのときだった。

 

 入口の引き戸が開く音がした。

 

「納品できるんか?」

 

 ヤマゲンだった。

 

「先生」

 

 夏美が振り向く。

 

 ヤマゲンは棚の部品を一つ手に取った。

 

「これ」

 

「今すぐ納品できるんか?」

 

 田中は首を振る。

 

「まだです」

 

「まだ加工途中です」

 

「そやろ」

 

 ヤマゲンは言う。

 

「まだ納品できてへん」

 

 一拍。

 

「つまり」

 

「まだ売れてへん」

 

 夏美は小さくうなずいた。

 

 ヤマゲンは部品を棚に戻した。

 

「売れてへんもんは」

 

 一言。

 

「経費にならん」

 

 田中は黙って聞いている。

 

 ヤマゲンは続けた。

 

「売上が立って」

 

 一拍。

 

「初めて原価になる」

 

 静かな声だった。

 

「せやから」

 

 一言。

 

「資産や」

 

 夏美は棚の部品を見た。

 

 ヤマゲンは続ける。

 

「現金が」

 

 一拍。

 

「姿を変えた資産や」

 

 そして、静かに言った。

 

「せやけどな」

 

 一拍。

 

「材料を買うたとき」

 

「現金は減っとる」

 

 夏美は顔を上げた。

 

 ヤマゲンは棚を指した。

 

「まだ売れてへんから、経費にはならんけど」


「金だけは出ていっとる」

 

 田中はゆっくりうなずいた。

 

「なるほど」

 

 棚を見ながら言う。

 

「利益には出てこないのに」

 

「お金だけは減っているわけですね」

 

 ヤマゲンは小さく笑った。

 

「そういうことや」

 

 一拍。

 

「黒字やのに」

 

「金がない」




 工場を出る前、

 

 夏美はもう一度棚を見た。

 

 削りかけの金属。

 

 まだ完成していない部品。

 

 そこには、

 

 材料代も、

 

 田中の手間も、

 

 機械を回した時間も、

 

 全部詰まっている。

 

 現金は、

 

 消えたわけではない。

 

 ただ、

 

 姿を変えただけだ。

 

 だが、

 

 その姿になった瞬間、

 

 通帳の残高は減る。

 

 そのことを、

 

 夏美はまた一つ、


 理解し始めていた。

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